【弐】
「ああ!」やっと合点がいった。
そうかそうか…わたしは身動きが取れないまま男の素手で叩かれているの。
また、しょうこりもなくこの状況がおかしくてたまらず思わずけらけらと声をたてて、
ああ実際には口に咬まされている布のせいで声は出ていないのだろうけども…ともかくわたしはおかしくなって笑っている。
男がくすくすといつまでも笑い続けるわたしに腹を立てたのか、体に鈍痛が走る。
この男はおかしいのだろうか?
酒の酩酊でけらけらと笑う女を許さないばかりか、折檻してくるなんて。
そんなことをされてもすぐには酔いは醒めない。そんなこともわからないのだろうか。
そうそう!確かあの時もわたしは酔っぱらってしまったの!
ねえ、聞いて。あの時の事だってわたしはちゃんと覚えている。
金沢へ旅行に行った時。
あれはおかしかったわね。わたしは紅葉を愛でると言い張って外出したのに、することと言えば地酒を探す事ばかり。
あなたはうんざりして顔が赤く照っているわたしを旅館まで連れて帰ったの。
…あの時だったかしら?月見酒をしたのは。
いや、そうではないはずね。わたしは酔いつぶれてしまってそのまま寝たのだもの。
浴衣の帯がはずれてしまったものだからね、あなたが私の手首に巻いたのよ。
そうだわ。ずっと聞こうと思っていたの。あれはどういう遊びなの。
子供の時のような人質ごっこなら私は何も楽しくはない。
身動きのとれない私に何をしたって、酔いつぶれているんだもの。覚えていないし。
もしかして、あなたは昼間から酔いつぶれて滅茶苦茶になった旅行の仕返しをするためにわたしをしばったの?
そうなの?
それなら納得がいくわね。だって、わたしが悪かったのだものね。
あなたは現実が見たくないだけだもの。
ぐちゃぐちゃと音がする。
…ああ、どうしてわたしってこうそそっかしいのか。口に布を咬まされているってさっき思い出したのに!
じゃあ、今まで話した旅行の思い出もあなたは理解してなかったの?
「くだらない。意味のない時間だ」とわたしは酩酊が冷めてゆくのをかんじた。
そうした後、彼は泣きながらわたしの尻をなで始める。
だんだん分かってきた。わたしは身動きのとれない中、素肌を晒されて男の素手でばしばしと叩かれた。そしてその個所は皮膚の感覚がなくなりむしろ痺れがむず痒さにかわり。
そして麻酔を打ったように肥大した感覚のまま。
下腹部が肥大したようにこれまでに味わった事のない感覚は、そういえばいつもの太ももの内側をそわそわと撫でられて体の芯を熱が貫いた時と似ている。
酔っぱらっているせいであるのだろう。これは何かに似ている。
泣きながら叩き、拘束され叩かれる私たちの様子はまるで性交に似ている。
そうして、わたしは酩酊が潮が引くように冷めて行くのを感じる。