【六】

そう、「愛」なんていう言葉で計れるものなら何でも許せる事になってしまう。
わたしはそんなに莫迦ではない。
莫迦ではないが「愛」の正体も知っている。
枯渇した彼のはらからや、緩んだ目元が可哀想でしようがない。
それを彼が言うところの「愛」で包んであげることもできる。


だってわたしには制約がないんだもの!!


わたしは莫迦ではないし、あなたはただの阿呆。
さっきからわたしの髪の毛をつかんでは畳にこすりつけ、
屹立したものでわたしを責め立てるように性交を求めつづける愛人。
性交に「愛」があるんだとしたら、これがあなたの「愛」?
そう思った途端に、愛人の男の乱暴な行為と改めて湧いて出た笑いが、
止まらずわたしの喉から「ぎゃあ」という声になって出て行く。
愛人の男は、わたしが受け入れてると勘違いしてるかのように…
わたしへの罵倒と愛を表す言葉で抱きしめながら狂って行く。
そうよ。
そうやって戻れない道を選べばいい。


言ったはず、わたしに制約はないと。
彼は、愛人は、現実社会の中で制約だらけになり、
その中でよりにもよってわたしを選びとり、
選びとり。
最初は玩具のように弄んでいたのにねえ。
はらからに潜り、潜り、もぐっているうちに彼は「現実」が怖くなったんだろう。
ははは。
もう戻れないところまで来てもなお、性交によって何かを追い立てる男。
ははは。
縄を掴み、わたしをごろごろと転がしては泣きながら腹を噛んでいる男。


どうせ、戻れないのに!


…ここは旅館のくせに仲居の挨拶が雑だった。
露天風呂に蠅が浮いていた。
ああ、文句がたくさんある。
一番の不満は「愛」を語りだした、この愛人。男。
くだらない。
殺したいなら殺せばいい。
とんだ茶番だ。


どうせ戻れないのに!