【四】

時計というものがどこかにあるんだろうねえ…とにやにやしながらわたしは回りを見回す。
なんていうことかしら、この散らかった部屋には時計がないの?
あるのはただ、丸い皿のようなものに文字が刻まれた羅針盤のみ。
それで時間を計ろうなんてどうかしているじゃないの。


わたしは時間が知りたいの。


今が夜だとか。今が丑の刻だとか。
そんなことは愚にもつかない。
これからわたしが玩具としてすいつくされるまでの時間が知りたい。
暴力という行為を愛情の行き着く先と勘違いした私の愛人が。
わたしを冷たくなった肉塊としてごろりと転がすまでの時間。
もしくはこの男が現実の軋轢に耐えきれなくなって泣き出す時間。
どちらも、真実。


それが少なからず現実となるのではないだろうかという懸念など、
この男を愛人として間口を開いた時からわかっていたことなの。
ええ、強がりではなくて。
だって、そうでしょう。
相手は現実から、生活から、責任から、ただ逃げてきた子供のままの下らない愛人を、
慈愛と置き換えた実のところ憐れみの優越感を抱いた時から分かっていたよ。


そうねえ。なんでと聞かれると…
きっとつまらないから、それだけの理由なの。
男の愛情を信じて身を委ねる素振りをするわたしと墜ちていく愛人。
そんな女の汚泥を飲み込めるわけもなく、わたしの愛人は思慮深くともとれるような苦悩の表情で、
焼けたわたしの臀部を指でなぞり、一時の恍惚を味わい尽くそうとしている。
どうだろう、この間抜けな顔!
わたしを物のように扱うことで自分の専属部品だと思おうとでもしているかのような、この表情!
ますます笑いが止まらないわたし。
ずれていく猿ぐつわ。
腹がよじれる程の高笑いを、じっと濡れた目で見る男。


わたしは時間が知りたいと言ったでしょう。
この茶番が終わって、わたしがまたひらりと羽ばたくまでの時間を。
私の愛人が雨に濡れた浮浪者の靴のように取りかえしのつかないところまで墜ちていく時間を。