2008-01-01から1年間の記事一覧

【完】

わたしは間も分からずどたどた愚鈍な足音をたててやってくるだろう仲居に、 ナイフを見られないよう新聞紙でぐちゃぐちゃと包んで男の鞄に入れた。 紙が音をたてているのに男はぴくりともしない。 定期的な寝息が聞こえてきて、なんだかわたしは無性に苛立っ…

【七】

戻れない事などは、この男が一番知っているのだろう。 「つっ」 と小さな舌打ちがわたしの口をついて出た時にはもう、 もう、男は泣きじゃくり肩を畳に落として動くのもままならない様だった。 いつのまにか障子は白み、朝が戯れ事を払拭する時間。 わたしの…

【六】

そう、「愛」なんていう言葉で計れるものなら何でも許せる事になってしまう。 わたしはそんなに莫迦ではない。 莫迦ではないが「愛」の正体も知っている。 枯渇した彼のはらからや、緩んだ目元が可哀想でしようがない。 それを彼が言うところの「愛」で包ん…